ここ最近のIT界隈におけるバズワード(流行り言葉)は「働き方改革」であり「RPA」でしょう。「RPAで業務効率アップ!年間30%の残業時間を削減!」なんて宣伝文句をよく目にしました。
確かにこれまでは「業務効率を高めるにはシステム開発が必要」という世界があり、それを実現するには多額な開発コストが必要でやむを得ず人手に頼ってきた企業にとっては、RPAは「開発不要でシステム自動化ができてしまう革新的テクノロジー」として魅力的に映るのでしょう。
私もWinActorやUiPathというRPAツールを触ってみましたが、確かにシステム側ではなくエンドユーザ側でシステム間連携ができてしまう点では、非常に便利なツールが出てきたものだと素直に感心しています。
ただ一方で、RPAを使いこなすためにはある前提があることにも気づきました。それは「エクセルのマクロに関する知識」です。
ビジネス現場では、エクセルは欠かすことのできないツールですが、私の知り合いを見渡しても、日頃からマクロを使って業務効率を上げている現場はほとんんどありません。
ごくごく少数の会社では、マクロ活用により産み出した時間を自社の強みに集中することができているところもあったりはしますが、組織的にマクロの運用ができている会社は残念ながら皆無です。(ちなみにラッキーにもマクラー(マクロ職人)がいる場合はその方を会社として本当に大事にしてあげた方がいいと思いますよ)
実際に高度なアウトプットが求められるマッキンゼーなどのコンサルティング会社や外資系金融機関などでは、マクロの知識はかつてのソロバン同様に新入社員で最初に叩き込まれる必須スキルとなっています。
そして、このマクロでさえも使えていない業務現場がRPAを使いこなせることは、残念ながら絶対にありません。なぜならRPAは何か特別な新しいテクノロジーではなく「マクロの拡張版」という便利ツールにすぎないからです。
マクロは元々エクセルを代表とするマイクロソフトのOffice製品の動作を自動化してくれるツールですが、RPAはこれに加えて、ほぼ全てのアプリケーション操作を統合的に自動化してくれるツールという「マクロの拡張版」の性質を持っています。
ですので、マクロの自動化に関する知識やプログラミングの概念(変数、ループ、例外処理など)が浸透している業務現場では非常に威力を発揮できるのですが、マクロを知らない業務現場がいきなりRPAを触ってもマクロ以上の効果を出せることはありません。
そして一番良くないケースがITベンダーの言われるがままRPAを導入し、ロボットの構築自体もベンダーに頼んでしまうことです。最初こそ目に見える効率が出るかもしれませんが、すぐにその効果も限定的もしくは以前よりも業務効率が下がってしまう結果になるでしょう。
何故ならRPAで作成したロボットは一度動き出したら終わりではなく、常に動き続けるように微調整が継続的に必要だからです。
業務システム側がアップデートしたり、業務フローが変わるたびにRPA側も変更しないと、すぐに陳腐化したシステムになってしまいます。また導入するRPAツール自体のバージョンアップにも追随していく必要もあります。
そしてその度にITベンダーにテストや改修を依頼していては、スピード感やコスト面で早晩行き詰まる事は目に見えています。加えて従来のサーバーでの集中管理型のシステム開発とは異なり、RPAは複数のクライアントでロボットを動かすため、そのロボット達のメンテナンスもその数分の負荷がかかることを見越しておく必要があります。
ですのでRPAは外部業者に頼むのではなく、自社内で完結できるスキルと体制が無いと効果は出せません。効果が出ないばかりかシステム的な負債となります。そしてRPAを活用するには最低限、エクセルのマクロが出来るスキルレベルの現場でないと使いこなすことはできないのです。
RPAの考え方自体は、経営者に「システム自動化による業務改革の可能性」を示唆したという意味で素晴らしいとも言えますが、ITベンダーの言うことを鵜呑みにすることなく、マクロによる効率化を全社の取り組みとして定着させてからでも遅くはありません。なにしろマクロはエクセルに無料でついてくるものですので万一失敗してもRPAのコスト以上は痛くはありませんしね。
繰り返しますが、マクロほど低コストでかつ強烈に効果が出せるツールもありません。ぜひともまずは社長さん自ら勉強してみることをお薦めします。
最初の取っ掛かりさえ掴めれば、マクロに関する情報はネットにいくらでも落ちていますので必ずマスターできますよ!