2019年ぐらいからIT業界のバズワードとなった「RPA」ですが、安易に導入すると現場の負荷を高めてしまい想定の効果が出せない結果になります。
導入当初こそうまくいったように見えたRPAも、運用保守フェーズにはいって2年目、3年目に入ると、基幹システム側の変更によるシナリオ変更や、RPAツールのバージョンアップによる再テストなど、トータルコストが見合わなくなる可能性が高いです。
社内の偉い人が「働き改革をなんとかせんといかん、RPAが効くらしい、検討せよ!」というメッセージを現場に投げて、なんだか分からないうちにRPAツールを使うことが目的化し、余計現場が疲弊してしまうという悲劇が既に日本中で起き始めているようです。
コンサルティング会社やITベンダーも、自分自身すらよく使ったことがないものを、さも最先端技術のような見せ方をして販促している例も散見されます。嘆かわしい限りです。
業務現場の自動化、というRPA自体の考え方は全く問題ありませんが、それをRPAツールという手段だけで解決しようとする今の流れは危険としか言いようがありません。
RPAという業務の自動化を進めるにはどのような手段が適当なのか、RPAツールは手段の一つにはなりえますが、本質をわかった上で利用しないと冒頭説明した運用地獄に陥ってしまいます。
ではそもそもRPAツールとはなんなのか、という話です。
RPAツールは、Windows OS上で動くエクセルや業務アプリケーションを、OSのインターフェース経由で操作を可能にしたツールです。これにより、これまではマウスやキーボードといった入力インターフェースを経由しないとできなかったアプリケーションの操作を、あたかも人が操作するように自動的に動作させることができるのです。
今まで人がパチパチと人の手で操作するしかなかったアプリが、キビキビと自動的に処理をすすめる様子を見た業務現場の人は「なにかスゴイ技術が開発され世に出てきた!」と思うようですが、これまったくの誤解です。
技術要素という面では、20年以上前から同様のことは実現可能でした。しかも無償のツールでです。
それはVBA(Visual Basic)やPythonというプログラミング開発環境です。マイクロソフトはOfficeにバンドルさせてVBAを配布していますが、これによりRPAと同等のことが行なえます。
エクセルのマクロという言葉は聞いたことがあるかもしれませんが、それをより高度化したものがVBAやPythonです。マクロがやってるのはエクセル操作の自動化ですよね?あれと同じようなことが、他のアプリケーションでもVBAを使えばできるのです。
つまりわざわざRPAツールを買うこともなく、業務の自動化はVBAを使えばできるのになぜVBAを使った自動化は広まらなかったのか。それはVBAで自動化を行うにはプログラミングが必要だからです。この敷居の高い「プログラミング」の必要性が自動化を阻んできたのがこれまでの業務現場でした。
そしてこの「プログラミング」を必要とせずに自動化を実現するツールとして出現したのがRPAツールです。RPAツールは「ノンプログラミング」で「GUIでフロー図を作るだけ」で業務アプリの自動処理を実現する、という触れ込みで昨今のRPAブームが出現したのです。
そしてこのコンセプトが働き方改革ブームとうまくマーケティング的な相乗効果が発生して今日のRPAブームに繋がったといえるでしょう。
たしかに、簡単な処理であればプログラミング経験のない人でもRPAで「自動化っぽいシナリオ」は作れます。しかし、実際の業務現場で使えるシナリオを作るには、変数の考え方、ループ処理や条件分岐、エラー処理などのプログラミングの知識が無いと、実用的な自動化ロボットは作成できないという事実があります。
実際、この概念なしに業務で使うシナリオを作成しようとして大きな壁にぶつかったか方も多いのではないでしょうか。
シナリオ作成を業者に依頼することもできますが、基幹システム側の変更やRPAツールのバージョンアップによる修正やテストなどのたびに、業者に高いコストで依頼する必要が出てくるでしょう。
そうなるとやはり自社でRPAのツールを使いこなす人材が必要になります。そしてRPAを使いこなせるスキルとは、プログラミングスキルそのものですので、わざわざRPAツールを導入するよりも、VBAやPythonで作ってしまったほうがコスト的なメリットは出せるでしょう。加えて、RPAツールに依存する部分を減らせるので運用保守に掛かるコストも減らせることができます。
職業プログラマレベルのスキル(例えばDBやWebサーバの知識)までは必要としない「業務プログラマ」を育成することが真の意味でのRPAを実現する鍵となるのです。業務プログラマであれば経営が意思入れをすれば育成のハードルはそこまで高くありません。
今後確実に到来する「RPAへの失望期」の先には、こういった業務プログラマを育成するマーケットが生まれていると予想しています。そして企業内の業務プログラマはデジタル人材として重要なモデルになっていくでしょう。
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